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中堅・中小企業におけるテクノロジーの活用

■新しいテクノロジーと労働生産性

 新しいテクノロジーを活用することによって、生産性を高める取り組みを考えるときに、どのような「テクノロジー」がどのような「経営領域」に効果があるのかということについて、分からないことには手の打ちようがありません。

 今回は、テクノロジーを活用して、実際に従業員の労働時間を削減できたか否かを示すデータを用いて、どのような「テクノロジー」が、どのような「経営領域」に有効なのかについて、考えていきたいと思います。使用するデータは、下表です。

[出所] 山本勲. (2019). 新たなテクノロジー導入の従業員への影響. スマートワーク経営研究所最終報告第4章第2節. から作成

 「経営領域」に関しては、「業務の自動化」、「コミュニケーション支援」、「場所を問わない働きかた支援」という3つのカテゴリーを対象としてます。更に、従業員データ、企業データの観点から、実際に労働時間の削減に影響があった項目には、〇をつけ、更に薄い青で色付けをしています。

■「テクノロジー」×「経営領域」の各項目

 カテゴリーごとにどのような技術があるのかということについて、見ていきたいと思います。

【1. 業務の自動化】

 まず、「業務の自動化」というカテゴリーで、実際に労働時間の削減に効果があったとされるのは、「AI(機械学習中心)」、「チャットボットなどによる自動対応」、「紙や音声の自動テキストデータ化」、「RPAによる定型業務自動化」です。

 この中の「チャットボットなどによる自動対応」とは、例えば、「夏休みの取り方を知りたい」というように、テキストを打つと、休暇取得の手続きや方法のメッセージが自動で表示されるものです。人事や総務の担当者が「質問を受けて」、「調べて」、「回答する」という労働時間を削減することが出来ますし、回答が瞬時に返ってくるというメリットもあります。

 また、RPA(Robotics Process Automation)は、PC上の定型作業をプログラムに置き換えて、自動化してしまう技術です。企業の規模感や業務内容によって効果の多寡はありますが、年間で数千時間から数万時間の削減に成功している事例もあります。

【2. コミュニケーション支援】

 「コミュニケーション支援」というカテゴリーでは、「ビジネスチャットツール」、「クラウドでのファイル共有」、「社内無線LAN」、「社内SNS」、「スマートフォン用ツール」、「フリーアドレス」が、労働時間の削減に効果があったとされています。

 この中で、「ビジネスチャットツール」は、Slackやチャットワークに代表される、コミュニケーションツールです。メールのように形式にこだわった、コミュニケーションではなく、手軽に迅速にコミュケーションができることが強みといえます。

 「クラウドでのファイル共有」は、DropboxやBoxのようなサービスに代表され、仕事で使用するファイルをクラウドのサーバーに格納して、複数の関係者が一つのファイルを閲覧・編集ができるようにするものです。協働作業がしやすくなるので、その分労働時間の短縮につながる効果が期待できます。会社の中にサーバーを立てれば同じような効果を期待できますが、クラウドと比較するとコスト高になることは否めません。このように、クラウドであるということは、安価に活用できるというという強みがあります。

【3. 場所を問わない働き方支援】

 「場所を問わない働き方支援」では、「シンクライアント・リモートデスクトップ」、「ペーパーレス化」、「テレビ会議システム」、「eラーニング」、「マニュアルなどの作成支援・自動化作成」が労働時間の削減に効果があったとされています。

 例えば、「シンクライアント・リモートデスクトップ」とは、個人のパソコンから、会社で使用するパソコンと同じ作業ができるようにするものです。また、「eラーニング」は、セキュリティー研修やコンプライアンスの研修をWeb上で行えるサービスです。これらのようなサービスを活用することによって、会社ではなく、自宅などで作業をすることが可能になります。このことよって、例えば、産休中の従業員が業務に携わることができ、埋もれている労働力を有効に活用することが可能になっている事例もあります。

■中堅・中小企業がテクノロジーを活用する場合の留意点

 以上のように、新しいテクノロジーを活用することによって、実際に労働時間の削減ができる領域が増えてきています。しかし、中堅・中小企業にとって留意しなくてはならないことは、今現在は、大企業で実施されている事例が多いということです。

 過去の事例にあまり頼れないとするならば、中堅・中小企業がテクノロジーを活用する場合には、「小さく」はじめることが大切ではないかと思います。例えば、「ビジネスチャットツール」や「テレビ会議システム」を使用するのであれば、安価なサービスで試してみて効果がありそうであれば、本格導入を検討するというような「手順」を踏むことが大切です。もちろんその場合には、セキュリティー上の問題も考慮しなくてはなりませんので、「目的」と「手段」と「手順」のバランスを考慮しながら、取り組みを開始するということが必要となります。

(第39回: 2019/7/10)