健康経営と生産性向上
■健康経営とは
最近、「健康経営」という言葉を耳にする機会が増えています。この「健康経営」とは、いったい何なのでしょうか?
経済産業省は「健康経営」を「従業員の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と説明しています。
平たく言いますと、社員が心身ともに健康に働いてくれれば、社員一人一人の仕事の効率も高まり、引いては会社の生産性も高まるはずだという考えに基づいて、社員の健康促進のために投資をしていくことだと言えそうです。
「健康経営」が求められる背景には、人口動態の変化が影響していると思われます。つまり、高齢化が進むことや、働き盛りの生産年齢人口(15歳~65歳)が今後40年間で今の約6割にまで大幅に減少していくという事実に起因しています。このような状況において、「従業員の高齢化」、「人手不足」、「採用難・人材の定着化」ということに問題意識を持たれている会社が多くあるということが、「健康経営」ということが取り上げられる要因の一つにあるのだと思います。
そして、「健康経営」を推進することによって、下記のようなメリットがあるとされています。
-会社の生産性の向上
-離職の防止
-採用の促進
-企業イメージの向上
では、この「健康経営」、中小企業においてどの程度浸透しているのでしょうか。2017年の調査結果では中小企業において「健康経営」を推進しているのは、約2割程度とされています。また、「取り組んでいないが、今後取り組みたい」と考えている企業は、全体の5割程度にのぼっているとのことで、中小企業においても一定の注目をされ始めていますが、実現に向けた動きにはあまり繋がっていないと言えるのかもしれません。
■中小企業における「健康経営」の取り組み例
具体的に、中小企業における「健康経営」とは、一体どのようなものなのでしょうか?
一つの事例として、株式会社浅野製版所における取り組みを見ていきたいと思います。当社は、2012年ころまでは、新卒の新入社員を10名採用すると、数年以内にほとんどが辞めてしまうというような状況だったそうで、離職率が高い職場であったようです。ですから、働きやすい職場環境を整えることが喫緊の課題とされていました。
このような状況で、下記のような打ち手を打っていきました。
-新卒の女性を積極採用し、教育制度を整備
-情報共有と効率化を促進する基幹システムの導入
-社内のコミュニケーションを促進させる施策の実施
-評価制度の大幅変更(全管理職が全社員を評価する仕組み)
-毎年全社員と面談し、働き方や会社への改善案を遠慮なく話してもらう機会の設置
-管理職に馴染まない従業員がいることが分かったため、技術を深める技術専門職と人と組織を育てる管理専門職を用意
-家庭と育児の両立を目指し、子育て世代の従業員を課長に抜擢
これらの取り組みを実施した結果、2017年度は、一人当たり月2時間の残業時間が減り、僅かながらも売上は増収となったようです。この事例においては、「健康経営」にかかる取り組みを進めることにより、離職率が低下し、また企業イメージの向上に寄与するようになったと言えそうです。
他にもコストをかけないで実施出来る、「健康経営」の取り組みとしては、下記のような例が挙げられます。
<短期的な事例>
-加入の保険組合等へ40歳以上の従業員の健診データの提供
-階段使用・社内でのストレッチの実施
-社員食堂・弁当で栄養バランスの取れたメニューを提供
-保健師や管理栄養士による生活習慣改善指導
-睡眠とアルコールに関する正しい知識の習得
-ストレス・メンタルヘルスに対する正しい理解の促進
-職場での感染症対策(インフルエンザ予防接種の費用負担など)
-ノー残業デーや有給休暇の取得促進の仕組みを導入
-分煙環境整備や禁煙プログラムの導入
-社長や健康づくり担当者から定期検診や再検査の受診勧奨
「健康経営」は、健康に対する従業員の意識を高めることや、企業イメージを向上させて、離職を防ぎ、採用を促進させる等を目的とする場合において、一つの手段になり得るのではないかと思います。
(第40回: 2019/7/17)
[参考文献]
(2017). 中小企業への健康経営の推進について. 経済産業省 ヘルスケア産業課.
(2017). 中小企業への健康経営の普及. 経済産業省 ヘルスケア産業課.
(2018). 健康経営ハンドブック. 経済産業省×東京商工会議所.