組織改革と危機意識
■組織改革が進まない理由
あるサービス業の経営トップから、「組織改革として、やるべきことは分かっているのですが、社員に実行させるというのは、大変ですね。」という言葉が出てきました。
何でも、いくつかある施策の中でも人事ローテーションの実施に難航をされているとのことです。人材のローテーションをすることで、柔軟なシフトを実現することは、採用難の状況に対応していく上で非常に大切なのですが・・・従業員が異動に難色を示しているとのことで、取り組みが前に進まないようです。
専門性の高い職種ですので、スタッフも優秀でプライドを持っていることは良いことなのですが、各チームが蛸壷化して何年も人事ローテーションが出来ていないと事です。
組織には、「慣性の法則」が働いています。「慣性の法則」とは物理法則のことで、真空、あるいは抵抗がない状態で物体に力を加えて動かすと、その方向にずっと動き続けるというものです。そして、動いている物体は、新たな力が加わるまで同じ動きを続けます。会社にも同じような「慣性の法則」が働いていて、特に必要が無ければ、従業員は新しい取り組みを始めることに抵抗するものなのです。
ですから、それまで何年間も行っていなかった人事ローテーションをしなくてはならないということに対して、大きな抵抗が生じるのです。上司も変われば、仕事の仕方も変わるので、出来れば異動したくないという気持ちは良く分かります。
そして、人事ローテーションに限らず、従業員の仕事の仕方が大きく変わる可能性のある、経営変革に対して、従業員が抵抗感を持つというのは、ある意味でとても自然なことだと言えます。
■危機意識の醸成の仕方
では、抵抗感を抑制しながら、人事ローテーションのような取り組みを前に進めるには、何をする必要があるのでしょうか?
いくつか抑えるべきポイントはあるのです。その中でも、まず、はじめにやらなくてはならないことが、危機感を醸成するということです。
例えば、この組織の場合には、危機感を醸成するために、外部環境が変わってきているということを説明しました。もう少し具体的に言うと、主戦場となっている市場が縮小してきていることや、競合他社が伸びてきていること、そして、生産年齢人口(15歳~65歳)が減少していくことが予想されている中で、採用難の状態が今後緩和される見込みがないこと等をお伝えしたということになります。
説明する際には、分かりやすいビジュアルのグラフ等を用いて、厳しい環境になってきていることを感覚的に分かるようにすることも必要です。自分たちの今のままのやり方を続けていたら、会社が傾いていく可能性があり、ひいては自分たちの職を失う可能性があるということを感じて、はじめて自分たちの仕事の仕方を変えるような組織変革に取り組むことを受け入れる土台ができます。
以上のように、組織には、「慣性の法則」が働いています。ですから、人は何の必要もなければ、自分たちの働き方を変える必要があるような、新しい取り組みを始めることに抵抗を感じます。
抵抗を抑制するためには、危機感を醸成することによって、確かに組織変革をしなくてはならない状況なのだなということを感じてもらうことが重要となります。つまり、経営層が感じている同じ危機感を従業員に伝え、目線を合わせることが組織変革を成功させる第一歩となります。
(第32回: 2019/5/22)