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経営における具体と抽象

具体と抽象という考えは、経営を考える上で非常に重要な概念だと思います。経営者は抽象の世界と具体の世界を行ったり来たりしながら、経営を進めていくものだからです。
例えば、理念、ビジョンといった内容は、抽象度を高めて思考をしなければ生み出すことは不可能です。抽象的であるからこそ、理念やビジョンを一度打ち立てると何年も何十年もそれらを指針として掲げていくことができます。もし、理念やビジョンが具体的であり過ぎると数年経つと古臭い内容になり、再び理念やビジョンを作り直さなければならなくなり、指針となり得ません。一方で、戦略・戦術・実行計画となるに従って、抽象度が下がり具体的になっていきます。最終的には、5W1Hのように誰が、いつ、何を、どこで、どのように実行するかを明確にしていかなければなりません。このように、経営者は理念・ビジョンを考えるときには、抽象度を高め、戦略・戦術・実行計画・実行となるに従って、具体的に検討を進めていく必要があります。

また、企業のステージによっても抽象と具体の度合いは変わっていきます。ステージとは、ここでは企業に少なからず繰り返し訪れる変革期と安定期のことです。変革期には抽象度を高めて、理念・ビジョンに立ち返り、企業を変革していくための戦略・施策を練っていく必要があります。一方で、安定期にはある程度ルーチン化されたタスクを効率良くこなしていくことが求められます。そのため、具体的な実行計画、及び実行が求められていくことになっていきます。

更に、企業のバリューチェーンにおいても、抽象度の高低が分かれていく場合があります。例えば、製造業における企画や製品開発のような上流工程では、マーケットの状況や外部環境をキャッチして企画や製品を生み出していく高い抽象思考が求められますが、実際にモノを製造していく過程では抽象的なことばかり言っていては、前に進みません。下流工程になればなるほど、具体的であることが求められるようになります。このように、企業内においても抽象思考が得意な人財と具体的な実行が得意な人財を見極めて、適材適所で配置していくことが求められます。

これらは企業活動の一端にすぎませんが、経営者は抽象の世界と具体の世界を行ったり来たりする必要があります。多くの学者のように抽象の世界だけで理論や法則を見つけ出すだけでは企業は回らず、だからと言って作業者のように具体的過ぎては会社を路頭に迷わすことになります。抽象と具体の間で中庸を保つ必要があります。「鳥の目」と「虫の目」を持たなくてはいけないと言われますが、これは一歩引いた目で全体を俯瞰してみることが「鳥の目」、一つ一つの詳細な事柄にフォーカスして仔細に検討することが「虫の目」と言えます。この「鳥の目」が抽象思考で、「虫の目」が具体的な行動という風にとらえることも可能かもしれません。どちらにしても、経営者は抽象と具体のバランスをとることが求められています。

[参考文献]
細谷功 (2014). 具体と抽象. dZERO