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「フォアキャスティング」と「バックキャスティング」

■組織改革が進まない原因

 労働生産性や収益性の向上のため、組織改革を進めているものの、中々思うように取り組みが進まないという状況に直面している会社は多くあります。原因は、下記のように多岐にわたります。

・目標設定が曖昧であるケース
・手法の選択に問題があるケース
・取り組み方に問題があるケース
・体制に問題があるケース
・組織内外のコミュニケーションに問題があるケース

 原因の特定については、ヒアリングや分析なしには進めることができません。しかし、組織改革を進めるときに考えておかなくてはならい、前提というものがあります。それは、組織改革を「フォアキャスティング」で進めるのか、「バックキャスティング」で進めるかということです。

「フォアキャスティング」と「バックキャスティング」

 「フォアキャスティング」とは、現在のやり方を大きく変えることはせずに、地道な改善活動を続けていくことです。例えば、売上を1年間で1割高めるという目標を掲げて、様々な施策を検討し、それを実行していくようなイメージです。

 他方、「バックキャスティング」とは、現在とかけ離れた目標を掲げて、それを達成するために必要な施策を検討することです。例えば、5年後に売上を4倍にするという目標を掲げたとします。この目標を実現するためには、地道な改善活動を続けていては到底到達することができません。目標の到達のためには、新しい戦略を検討し、製品・サービスを開発し、販路を開拓していくというような抜本的な改革が必要です。

 実は、この「バックキャスティング」という考え方は、新しいものではありません。実際に、例で挙げた5年間で売上4倍という計画は、松下幸之助氏が1956年の松下電器の中期経営計画で発表したものです。そして、松下電器は、計画よりも1年前倒しして、4年間で売上4倍(200億円から800億円)を達成しました。

 では、何故、「バックキャスティング」は、地道な改善活動である「フォアキャスティング」と比較して大きな効果を享受することができるのでしょか?

 理由は、「バックキャスティング」は、「しがらみ」を取り払う力と、「外部環境への対応力」を組織にもたらすからです。地道な改善活動をしていこうとすると必ず「しがらみ」との戦いをしなくてはなりません。それは、既存の事業での成功体験に引きずられて、既存のやり方に固執してしまうからです。そして、これが抵抗勢力となってしまい、変革のスピードを著しく低下させていくことになります。

 また、「バックキャスティング」は、現状の延長線上から考えると一見無理だと思えるような目標を設定します。しかし、その過程において、必ず外部環境を分析します。経済状況、技術革新の状況、政治状況、人口動態等を踏まえて、戦略・目標を設定しなくては、目標の実現可能性が著しく低下するからです。実際に、松下幸之助氏も、経済成長、従業員数、設備力等の独自の視点を踏まえて、実現できるという確信を得て、5年で4倍という目標を掲げました。

 このように「バックキャスティング」は、「外部環境」を踏まえた実現可能性がある目標を掲げ、「しがらみ」を取り払って組織を変革していくことが出来るために、大きな効果を享受することが可能になるのです。皆様の会社においても組織変革をするときには、「フォアキャスティング」で進めようとしているか、「バックキャスティング」で大きな果実を得ようとしているのかの意思決定をすることが重要です。

 もちろん、闇雲に「バックキャスティング」で大きな効果を得ようとすると、成功している既存事業を棄損する可能性ありますので、既存事業を「フォアキャスティング」で改善しながら、外部環境を分析の上、「バックキャスティング」で大きな果実を取りに行くというバランス感覚が大切なことは言うまでもありません。

(第48回: 2019/9/11)